火星の人の話
最近、夜空でずいぶん大きく光る星があるなあと思っていた。赤い。
でも火星にしては明るすぎない? さそり座の可能性は? またたいていないから惑星か、やっぱり火星か。
▼地球と火星の距離・大きさ
【2016年】
距離:7,528万km
大きさ:最遠時の約5倍
ウェザーニューズによる、今夜の火星と地球の距離を見た。
75,280,000キロメートル。
別の数字を思い出した。
225,300,000キロメートル。おおー、3倍も違う!
下の数字は、映画オデッセイ(MARTIAN 火星の人)での地球と火星の距離だ。
火星にひとり取り残されたマーク・ワトニー(マット・デイモン)が、生き残るための行動をひたすら取り続ける物語。
(以下、内容に触れています)
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はじめに映画を観た
予告動画での「サプラ~イズ」という場にそぐわないセリフと火星家庭菜園。観に行った。
映画の中で彼は、何もかも圧倒的に物質が足りないと思われる中、淡々と作業を進めている。
現状把握→未来予測→目的のために必要なものを考える→必要なものを作り出す
繰り返し繰り返し。
かといって、感情が無いのではない。表情も表現も実に豊かに毎日を重ねている。
失敗すれば怒り、成功すれば喜び、思いついたらジョークを飛ばし、生きるための作業と生きている楽しみの両方を存分に味わっている。
「映画で観て良かった」と一番思ったのは、取り残された彼が自分で自分を手術するシーンだ。
その場面、私は映画館の座席で「死ぬ―、死ぬー」と、心でうめいていた。薄目になりながらも必死にスクリーンを見ようと努力し、けれど身体はめっちゃ出口方面へ逃げようともがいていた。なんだこの映画は。ホラー映画か。
刺さったアンテナを抜くときの痛さに「ギャー」(心の声)
麻酔(抗生物質?)注射をがっちがっち打つ様子に「ギャー」(以下略)
なにやらわからん器具を傷口につっこみ(!)「ギャー」
さらにつっこみ「ギャー」
取り出し「ギャー」
なんかもう、疲れた。
開始10分も経っていないと思ったが、その時点で体力のほとんどを使ったような気分だった。
このシーンに比べたら、あとの2時間は穏やか。紆余曲折あって楽しく興味深くハラハラドキドキはするが、スクリーンに大写しになった血だらけの傷口手術シーンほどのグロテスクさは無い。ここさえすぎれば安心。
そして本を読んだ
まず気になるのはあの手術場面だ。痛々しく激しいホラー(すみません、ホラー苦手なんです……)場面が、小説だとどんな表現になっているのか。
ハヤカワ文庫SF 火星の人[新版]の上。P18より引用
ハブに入るとスーツを脱いで、はじめて傷をじっくり見ることができた。縫合が必要な傷だった。幸いなことに、ぼくらは全員、基本的な医療行為の訓練を受けていたし、ハブにはすぐれものの医療用品の備えがあった。ちゃちゃっと局部麻酔を打って、傷口を洗って、九針縫って完了。抗生物質を二週間ぐらい飲む必要はあるが、それ以外、体調に問題はなさそうだ。
ワトニー、タフすぎ。
どこにも痛さの表現が無い!
でも、記録としてはこう書くのが当然なのだろうと思う。手術内容の記録は医療従事者としてのものだろうから。患者の日記ではなく、術者として必要とされる記録。
そして小説での彼の行動は、一人称で書かれている部分が多い。後に発見された場合のための記録だ。しかし映画は、客観的に彼の姿を映している。周囲の状況も含めて。
傷とはどんな傷なのか、ハブの様子はどうなのか、手術の手際は、彼の表情は。
映像によって「マーク・ワトニー」の置かれている状況を先に見たことは、本を読む上で大いに助けとなった。
経験と想像力の豊かな人なら数行におさめられた手術シーンに「ああ、痛くないわけないよな」と思えるかもしれないが、わたしだったら話の続きが知りたくてあっさり読み捨てていただろう。水をどうするか、食料は、今後の見通しは、知りたいことは山ほどあるのだから。
映画と書籍と
どちらがいいとも言えない。
どちらも体験して、総合的に火星の人の世界を楽しむのがいちばん面白いんじゃないかと思う。
前述したように、映画では書籍にはないが起きているだろう状況の映像表現がなされており、感覚的に「地球と異なる環境で生きることの凄絶さ」を理解できる。
しかし書籍では、逆に映画では描かれない出来事をこれでもかというほどにつめこんであるので、「どれほど困難に遭ってもなお道を見つけて進み続ける人間の凄さ」を感じることができるだろう。事件はもっと起きている。
両者は大筋で同じ物語「生き続けるために現状を見ろ、考えろ、動け」だ。休む(心も身体も)ことも、同じだけ重要であることも感じた。どこだったかな。食事のシーンとか音楽とか。原作ではテレビドラマのビデオも見るし、電子書籍で「スタイルズ荘の怪事件」も読む。
常に死と隣り合わせではあるし、強制的にひとりきりであるということは多大なストレスだけれど、ワトニーの火星生活は人としてとても充実していた。最終的に助かったから言えることだけれど。
なんてことを、火星最接近・スーパーマーズを知って考えた。
火星がこんなに近く見えるのなら、ワトニーとの交信も簡単にできそうだ。
う~ん、念力とかで。
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