神様ゲーム
文庫本、表紙買いする多くの中で、よっしゃ! と思えた一冊。
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「神様ゲーム」(著者 麻耶雄嵩)(カバー装画 ヒグチユウコ)
主人公が小学生の男の子なのに、読んでいてまったくない違和感。
出てくるテレビ番組の情報や、友人同士の会話、家族にかける言葉、それから相手の反応の観察。
これ、どれも自分で体験したことだっけ? デジャヴ? 何か不思議な気がする。
(あとで考えてみる)
一見、子供向けに調整されたお話のようでいて、途中途中に重くて硬い事実がぶつかってくる。ガツンガツン。
それが、確かに現実でも起こりうるし、安心して安全で無知でいられる世界とは、異なる世界が間違いなくあるし、っていうか今この世界そのままだよねと思える。
ごまかさない、情報は提示されている、引き出される事実が並んでいく。
コナンドイルのシャーロック・ホームズシリーズを読んだ後のような、そのままを受け入れられる満足感。
これはトイレ掃除を通じて、
小学生と神様の
心の交流を描いたお話です。
帯にあった著者の言葉3行。
いや、でも、だけどそれだけじゃ……と言いたくなるけど、作者が言うんだからそれが事実なんだよね。
製作者が言うことが絶対の事実。
そういうお話。
(あとで考えてみた)※ここからネタバレあり※
特にお話の中、主人公の思いとそれを理解しない他人とのやり取りに、共感を抱いたのかなと思う。
似たような体験、あるなあと。
冒頭の誕生日ローソクからはじまってごちそうさまで二階にあがるまでの短い間にもいくつかあった。
主人公は自分の身体が弱い目、クラスでも貧弱な方であることを気にしている。父親に心配されることがプレッシャーになっている。だからこそケーキの上のローソクを一度に吹き消したいのに、叶わず残ってしまう。
そんな主人公に対し、
父親は「だらしないぞ」と言い、母親は肺活量を増やすため「好き嫌いをなくさないと」と言う。
あれ? それひどくない? 何年も気にしていること、それでも渾身の息でローソクを消そうと努力した彼に対して両親はそろって「お前が悪い」と言っている。
誕生日のプレゼント、去年は要望が伝わらなかった。
自分では手に入れられないものだからこそ頼んだのに、ちょっと工夫すれば買えてしまうおもちゃが用意されていた。
もちろん情報の行き違いなんだけど……子どもが理解していることを親が理解していない→そのまま実行されてしまう→結果、子どもの意思が無視された形で終了。よくある事例に思える。
父親に、周囲で起きている事件について話しかけた。途中までは子どもの意図を汲み取り、事件についての情報交換になっていたがそのうちに説教へと移行していく。
誕生日に、めったに一緒に過ごせない父親がいてくれると理解している主人公に、わざわざ説教。
めったに会えないからこそ大切なことを話し伝えようとした子どもの気持ちを、踏みにじってないか?
中盤になると、主人公と親友とのトラブルがある。
主人公は自分の立場とどれだけ大切に思っているかを懸命に説明するが、相手は聞き入れない。
相手の言葉のほうが詭弁で、一方的だ。
主人公は熟考の上、親友だからこそ、一番たいせつな真実を伝える。が、相手は信じない。言わせたのに信じず、主人公を悪者に仕立て上げてしまう。
主人公の親友を大切に想う気持ちは変わらないし、実際誠実であるままなのに、相手は聞き入れず「無視」という手段で主人公にダメージを負わせようとした。
とここまで書いて、すごく嫌な気持ちになった。
起きたことに目を向けると、とても理不尽な扱いを主人公がされているように感じて憤りを感じる。
けれど、実際読書中には同じ感情は抱かなかった。すごく穏やかに読み進めていた。
あれ? なぜだろう。また不思議だ。
(もう少し考える)
私は、自分の気持ちをわかってもらえているように感じていたのかもしれない。
自分の意図を理解されず、一方的な解釈で不利益を受ける出来事。
自分には何も非が無いのに、誤解を受け「お前が悪だ」と非難される。
そしてそれは、相手が事実を受け入れないまま、一生が終わることもある。
主人公の親友のように。
裏切り者の嘘つきと、主人公を決めつけ怒りを抱いたまま。主人公の誠意を受け取ることを拒否したまま。
主人公にはどうしようもない。そして、どうする必要もない。
家族だったり、親友だったり、本当に大切な相手であり、相手も大切に想ってくれていると確信していても。
どれだけ話したところで、自分が歩み寄ろうとしたところで、理解は得られないのだ。
相手が、理解しないことを選択しているのだから。
なんだか、癒されるような気がした。
誤解を受けたまま、離れてしまったひとたち。もしかして、誰にもそんな存在があるのだろうか。
通りすがりの人でも、一時期関ったひとでも、今でも大切な誰かでも。
話せばわかってもらえる、説明すれば気付いてもらえる、自分が誠実であり続ければいつか信じてもらえる……と、どんなに努力しても報われることはない。
でもね
こういうこと、あるんよね。ねー? と、神様視点の存在が見てくれていたように感じた。
そして主人公はというと
気落ちはしても、痛みを過剰に受けとることはなく、淡々と過ごして行く。
状況を冷静に見つめ、自分自身が出来る範囲のなかから自分の望む状況への道を、選択していく。
望まない状況を避けるという選択肢
その実行がゆるされる世界
自分を守る手段を身につけ、自分の対処範囲を理解している主人公だから、安心して見ていることができたのかもしれない。
まとめ?
- 理不尽な体験ということに、覚えがあった→共感・デジャヴ
- 理不尽な体験の原因は自分ではない。原因は相手にあるのだから、解決の責任も自分にはないという事例→癒し
- 理不尽は避けてしまっていいというお墨付き→安心
こんな感じ?
気楽に生きよう~(*´▽`*)
とはいうものの、気楽という立場からほど遠い主人公のこれからが、気になる。すごく。
続き読みたい。