怪盗対名探偵
特別お題「青春の一冊」 with P+D MAGAZINE
- 作者: モーリスルブラン,南洋一郎,Maurice Leblanc,初野晴
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2010/05/07
- メディア: 文庫
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「青春の一冊」ということばに、しばらく迷っていた。
これまでに読み「これは」と繰り返し楽しんだり、知人に薦めるほど好きであった本なら、いくつかある。ただ、それが「青春の一冊」と言える自信がなかった。
自分にとっての青春とは、なんだろう?
青春という言葉のイメージは、活力にあふれ何事にも挑戦していく、そんな人の生きる様だ。
それを自分に当てはめようとしたが、どうにもうまくいかない。これまで生きてきた時間のどの部分を切り取っても、「ここからここまでが青春だった」と示せそうな時代が見当たらないのだ。
強いて言うならば、青春を謳歌している気分、が、やってきて味わっては去って行く、が繰り返されているように思う。
では、その瞬間に読んでいた本を「青春の一冊」として取り出せるかというと、まったくできそうにない。
本が多すぎるのだ。そして、その時期の自分に合っていた本であっても、今の自分とマッチしていないものを「唯一」として選ぶことに抵抗を感じてしまう。
そして思い出した。
そもそも、自分で本を選び、読み味わうことがどれほど刺激的な行為であるかを知った瞬間と、その一冊を。
「怪盗対名探偵」
怪盗ルパンシリーズの著者モーリス・ルブランによる、アルセーヌ・ルパンとシャーロック・ホームズ対決の物語だ。(原著では、名前をもじっていたもののあきらかにホームズを指していたようだ)
小学校の中、高学年だっただろうか。
親から与えられていたのは幼い頃の童話ぐらいで読み物といったら小学生向けの雑誌や漫画、教科書ぐらいのものだった。
推理小説もSFも、手の届く範囲には無かったのだ。
「図鑑」や「えらい人シリーズ」「夏休みの課題図書」は、身の回りにいる大人たちの望む答えを、子どもが導き出さなくてはならない「答えさがし」の一環であり、楽しむものではなかった。教訓や道徳的な勧善懲悪、立派な大人になるための勉強、それ以外は許され無い時代だったのだ。
なので、「怪盗ルパン」の文字を学校の図書室で目にしたとき、とても驚いた。
ルパンって泥棒だよね!? そんな本が学校にあるの、なんで??
読んでいるのを見られたら、怒られるかもしれない。そんな恐怖を持ちながらも、本に伸ばす手を止めることはできなかった。
いくつかあるシリーズの中で、一番最初に読んだのがこの「怪盗対名探偵」だ。
ルパン、そしてホームズ。小学生の自分ですら知っているほどの有名キャラクター、どちらもそうだった。これなら、難しい内容でも少しはついてゆけるのではないかしらん。
そして、夢中になった。
古ぼけた家具、怪盗、想像もできないような大金、事の真相。
最初の物語には、まだホームズは出てこない。しかし、この短い物語の中にちりばめられている優しさと愛に心があたたかくなり…… 謎と真実から浮かび上がるそれぞれの生き方に希望を抱いた。このときはじめて、人生の多様性を感じたのだ。
このあと、怪盗対名探偵の物語がはじまる。
私の、読書探検の物語もはじまった。
教科書に引用されていた物語の本、名前だけは知っている作家の本、友人に薦められて読んだ本。
名作と言われている本、なんとなくフィーリングで選んだ本。
気になったもの、気に入ったもの、「こう生きたい」「こうありたい」と熱烈に感じることができたもの、いろいろあった。
でも、そのすべてのきっかけとなったのはこの一冊だ。
自らが選んでいい、考えていい、感じていい。そんな選択肢を手にすることができた本、「青春の一冊」。